パートナー 第48刊 7月号
発行日 2010年7月
発行人 サンセイ「パートナー編集室」

「哀れなるものよ!」

一悪太郎(中野芳男)著

俺は何故こんな仕事をさせられるのか。
俺と同じ時入社した奴らは各部に割り当てられて相当の仕事をしているのに・・・・・
こんな女のする仕事をいつまでやらなければならないのか・・・・・
研究的に仕事にかかれ! 何が研究だ こんな仕事は、否こんなもの仕事とは言えないぢゃないか。
かかることに例会1カ月でも甘んじることなく苟くも母校の名にかかわることだ
部長に抗議を申し込んでやろうか・・・・・
今の醜態もこんな仕事をさせやがるからだ、5時になって放たれた籠の鳥の如く一直線にオデンヤへ!
琥珀色の水は彼の昼の憂いを何処かへけし飛ばしてしまった。
「やはり俺は現父の言に従って従順に働こう」
彼の卒業の時、オヤジは懇々と言いきかしたのであった。
「貴様は学生時代のように自由な我が儘な気持ちを以て勤めてはならない。世の中は貴様が今考えているような空想的なものでは決してないのぢゃ。如何なる仕事を与えられても不満の念を抱かず従順にこれをきかなければならない 喝ッ」
孝心深き彼は忠実にこの言葉を守るべく決心した。

間もなく彼の其の属する女護島の島民は封筒の表書きを書かねばならなかった。
「電鉄会社へ入社したら最初の一年間は切符を切らねばならないと、俺の此の封筒を書くのも同じことだ」
自ら慰めつつ彼はカマビスシキ中に単調な日々を頑張っていた。
道行く人は皆、春の行楽によっている。世の春を人生の春を彼らは享楽しているのだ。うっとりとして彼は窓から道行く人を羨ましそうに眺めるのだった。
五時になって唯一人帰る道すがらサラリーマンらしい服装をした奴を見る毎に 彼奴等も俺の様に封筒を書いて居やがるのだな それにしてもエラソウに歩いて居やがる 「ハタッ」と彼は膝をうった
「そうだ 俺もエラソウに歩いてやれ!如何にも重役の様に」
彼は阪急前で夕刊を買った 彼らと同じ様に。
そして悠々と改札口を入って行った。
車中の人たちの顔があいつもあいつも封筒を書かされているのだなー と思って仕方がなかった
断然彼は朗らかになった。
夙川の堤をステップ軽やかに 赤き翼・・・と口笛吹きつつ帰り行く颯爽たる彼の勇姿よ!
「君 チンドンヤの監督になって京都から浜松まで約一ヶ月出張して貰いたい」
「ハッ」
青天の霹靂! 有無を言う暇もなく其の夜 京都行きの電車に彼を発見した

オラガビールを宣伝すべく チンドンヤ以下旗持ち人夫を会して十名を引き連れて彼は京都の盛り場を練り歩いた。
七月の暑い太陽に照りつけながら彼は言葉に言い表せない淋しさ悲しさをどうすることもできなかった。
「大将、向うのお寺で一休みしましょうか」
「大将」彼はこの言葉が情けなかった。
「俺は高商を出てチンドンヤの大将か」
寺の銀杏の木陰に座って彼は考えた
チンドンヤ出張を命じられた時の同僚の嘲笑的な顔!先刻駅で見た休暇で帰省する学生の群!尚それよりも共に高丸丘を下った同窓のことを!
緑に霞む淡路島を眼下に見ながら雄大なる理想を以って なつかしの母校に別れを告げた俺だったのに・・・・・・・・!
共に同じ学舎に学び 共に巣立った俺だったのに・・・・・・!
彼は心の中で泣いた。
「オッサン あの旗オクレよ あの風船オクレよ あのオッチャンがやると言ったら上げると言ってはんね オッチャン 一番エライのやろう おくれよおくれよ」
小さな子供たちの声に彼は静かに自分を振り返った。
頑是(分別)なき子供等よ!
この俺を一番エライと思っているのか このオッチャンはこれでも淋しいのぢゃゾ
「よしよしいくらでもやるから貰いに来い」
彼は少し朗らかになった
「俺は一番エライのぢゃもの」
あの旗持ち人夫達の生活に疲れたる顔よ!
何の希望も無きあの空ろな顔よ!
一日の収入八十銭也のあの人夫は その金で家を支え 子供を養って居るのだ。
俺は、俺は彼らに比べて・・・・・ ・・・・・
彼の今までの憂いは何処かへケシ飛んで仕舞った。
「そうだ!俺は彼らと共に、彼らと同じ様に働こう」
彼は宣伝用の小旗と風船を持った。そして、道行く人に自ら渡して行った。一食十銭也の昼食も共に食った。
「お前達 酒を飲むか」
「エー 好物でしてエヘ・・・・・すみませんナー」
一コップ十銭也のドブロクを彼は自腹を切って共に飲んだ
「大将、若いのによく理解してはるナー 前に来た監督は只ガミガミ怒りやがってナー 野郎共! そうじゃねえか、この大将中々分かってはんで」
チンドン行進は街から町へ幾日も行ったが然し 待望の雨は一日も降らなかった。
一日の休みも無く京の町を十日間に渡って宣伝を終わり、彼は彼らと共に又名古屋に旅立って行った。

パートナー49号へつづく

 

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